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東京地方裁判所 昭和59年(ワ)7882号 判決

原告

大宮佑壽

被告

株式会社西村の家具

ほか二名

主文

一  被告株式会社西村の家具は、原告に対し、八〇二万二四九二円及び内三〇〇万八七八二円に対する昭和五五年九月一日から、内四三一万三七一〇円に対する昭和五七年六月一五日から、内七〇万円に対する昭和五九年九月三〇日から、支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告山口勝、同日本通信建設株式会社は、各自、原告に対し、四七六万四八五〇円及び内四三六万四八五〇円に対する昭和五七年六月十五日から、内四〇万円に対する被告山口は昭和五九年一〇月二八日から、被告日本通信建設株式会社は昭和五九年九月三〇日から、支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを三分し、その一を原告の、その余を被告らの、各負担とする。

五  この判決は、主文第一、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告株式会社西村の家具(以下「被告西村の家具」という。)は、原告に対し、八六四万三八一九円及び内七八六万三八一九円に対する昭和五五年九月一日から、内七八万円に対する昭和五九年九月三〇日から、支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告らは、原告に対し、各自、二七七五万三七六三円及び内二五二三万三七六三円に対する昭和五七年六月十五日から、内二五二万円に対する被告西村の家具及び被告日本通信建設株式会社(以下「被告日本通建」という。)は昭和五九年九月三〇日から、被告山口勝(以下「被告山口」という。)は同年一〇月二八日から、支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  第一事故の発生

昭和五五年八月三一日、神奈川県川崎市内の高速自動車道路通称第三京浜の川崎側出口料金所において、料金支払のため停車中の原告運転の自動車に西村義夫運転の自動車(以下「西村車」という。)が追突した。(右事故を、以下「第一事故」という。)

2  第二事故の発生

昭和五七年六月十四日、東京都世田谷区大蔵六丁目一八番一号先路上において、歩道を歩行中の原告に、道路横の空き地に停車していた被告山口運転の普通貨物自動車(以下「山口車」という。)が横から衝突した。(右事故を、以下「第二事故」という。)

3  責任原因

(一) 被告西村の家具は、第一事故当時西村車を保有し自己のため運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)第三条の規定に基づき、同事故による損害を賠償する責任がある。

(二) 被告日本通建は、第二事故当時山口車を自己のため運行の用に供していた者であるから、自賠法第三条の規定に基づき、同事故による損害を賠償する責任がある。

(三) 被告山口は、歩道を歩行中の原告に対し、道路横の空き地に停車していた山口車を横から衝突させるという一方的な過失により第二事故を発生させたものであるから、同事故による損害を賠償する責任がある。

(四) なお、第二事故後に発生した損害は、第一事故と第二事故の両方が原因となつて発生したものであるから、右損害については、被告ら全員が連帯して賠償する責任があるものである。

4  原告の傷害、治療経過及び後遺障害

(一) 原告は、第一事故により頸椎捻挫の傷害を負い、事故の翌日から日産厚生会玉川病院(以下「玉川病院」という。)に通院し、第二事故までの通院回数は一一六回であつた。なお、原告は、医師から入院を勧められたが、当時小学校低学年の息子と二人暮らしで、他に同児の世話をしうる者がなかつたため、通院治療しか受けることができなかつた。

(二) 原告は、第二事故で、転倒はしなかつたものの、身体が捩じれる状態となり、第一事故による頸椎捻挫の傷害が増悪するとともに、新たに腰椎ないし左股関節捻挫の傷害を負い、症状が極端に悪化し、激しい項部痛、後頭部痛、両肩甲部痛、両上肢痛、腰部痛、左股関節痛、右膝部痛を感じるとともに、疲労、倦怠感と不眠に苦しみ、歩行は杖をついてようやく僅かの距離を少しづつできる程度の状態が続いた。

(三) 原告は、第二事故後、玉川病院への通院を昭和五八年二月二一日まで計三四回続け、また同病院の主治医の紹介により、九段坂病院に昭和五八年一一月九日まで計一七回通院して治療を受けたが、症状に見るべき改善がなく、同日同病院において症状固定の診断を受けた。

(四) 原告の後遺障害の内容は、以下のとおりであり、少なくとも自賠法施行令第二条別表後遺障害別等級表(以下「等級表」という。)第九級一〇号に該当するものである。

(1) 主訴又は自覚症状

頭痛、頭重感、イライラ、特に左耳鳴り、項部―頸の痛み、頸の運動制限と運動痛、背痛、同一の姿勢でいることが困難、両上肢の痺れと痛み(右>左)、右第三、第四指が伸びにくい、右肩関節の運動痛と運動制限、腰痛特に運動痛、両上肢の痺れ感と痛み、両股関節痛(右>左)及びあぐらがかけない、両膝関節痛、寝つきが悪い、歩行より自転車が楽である、歩行時に一本杖を使用する、階段の昇降がつらく、しやがむと手を使用しなければ立てない。

(2) 他覚症状及び検査結果

大後頭神経・僧帽筋・腕神経叢の各圧痛(右>左)、上肢腱反射やや亢進、股関節の股屈曲位での外旋が右三五度左三〇度と制限され、あぐらがかけない、スカルパ三角の圧痛、ラセグ症状右七〇度左四五度で陽性。

(3) 頸椎運動障害

前屈六〇度、後屈四〇度、右屈三〇度、左屈四〇度、右回旋五〇度、左回旋七〇度。

(4) 右肩関節機能障害

自動運動は、前挙一五〇度、外転一四〇度、伸展四五度、他動運動は、前挙一六〇度、外転一四〇度、伸展四五度。

5  損害

(一) 第二事故発生までの損害

(1) 治療費 一六五万六九九〇円

原告は、第一事故後第二事故発生までに右金額の治療費を支出した。

(2) 交通費 二万五五二〇円

原告は、前記の第二事故発生までの玉川病院への一一六回の通院のためのバス代として片道少なくとも一一〇円を要したから、合計は右金額となる。

(3) 休業損害 八〇一万〇〇四九円

原告は、マツサージ業に従事していたのであるが、第一事故後、その傷害のため全く稼働することができず、以後現在まで稼働できない状態が継続している。

原告の休業損害算定の基礎収入としては、労働省賃金統計の男子・全産業・全規模・学歴平均額によるのが相当であるが、右額は、賞与を含め、月平均で、昭和五五年は三三万五三〇〇円、昭和五六年は三七万二〇〇八円、昭和五七年は三九万六八〇〇円であり、右額に基づき、原告が稼働できなかつた日数、すなわち、昭和五五年は第一事故発生から年末まで一二二日、昭和五六年は全期間三六五日、昭和五七年は第二事故まで一六五日をそれぞれ乗じると、昭和五五年は一三六万三五五三円、昭和五六年は四四六万四〇九六円、昭和五七年は二一八万二四〇〇円となり、その合計は八〇一万〇〇四九円となる。

(4) 傷害慰藉料 一二六万円

第一事故から第二事故までの期間二一・五か月における原告の傷害に対する慰藉料は一二六万円が相当である。

(5) 損害のてん補 三〇八万八七四〇円

原告は、以上の損害に対するてん補として、被告西村の家具から三〇八万八七四〇円を受領したから、残損害額は七八六万三八一九円となる

(二) 第二事故後の損害

(1) 治療費 一八万九九一〇円

原告は、第二事故後症状固定日までに一八万四七一〇円の治療費及び五二〇〇円の診断書・明細料を支出した。

(2) 交通費 二万〇七四〇円

原告は、前記の第二事故発生後の玉川病院への三四回の通院のためのバス代として片道少なくとも一一〇円を要し、また、九段坂病院への一七回の通院のための電車代及びバス代として片道三九〇円を要したから、合計は右金額となる。

(3) 休業損害 六七一万九一四七円

原告は、前記のとおり、第二事故後も、その傷害のため全く稼働することができなかつた。

そこで、前記同様の平均賃金に従い、昭和五七年以降も同年の平均賃金を基礎として、原告が稼働できなかつた日数、すなわち、昭和五七年は第二事故発生から年末まで、昭和五八年は症状固定日までに従つて計算すると、昭和五七年は二五七万九二〇〇円、昭和五八年は四一三万九九四七円となり、その合計は六七一万九一四七円となる。

(4) 傷害慰藉料 一一二万円

第二事故から症状固定日までの期間一四・五か月における原告の傷害に対する慰藉料は一一二万円が相当である。

(5) 後遺障害による逸失利益 一二八六万八六七六円

原告は、前記の後遺障害により、少なくとも、症状固定日から一〇年間、三五パーセントの割合で労働能力を喪失したから、前記昭和五七年の平均賃金を基礎とし、ライプニツツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、原告の逸失利益の現価を算定すると、その合計額は一二八六万八六七六円となる。

(6) 後遺障害慰藉料 四五〇万円

前記の原告の後遺障害の部位、程度等によれば、原告の後遺障害に対する慰藉料は四五〇万円が相当である。

(7) 損害のてん補 一八万四七一〇円

原告は、以上の損害に対するてん補として、福祉事務所から治療費として一三万三五七〇円の支給を受け、被告西村の家具から五万一一四〇円を受領したから、残損害額は二五二三万三七六三円となる。

(三) 弁護士費用 三三〇万円

原告は、被告らから損害額の任意の弁済を受けられないため、弁護士である原告訴訟代理人に本訴の提起と追行を委任し、その費用及び報酬として認容額の一割に相当する金額を支払う旨約した。前記(一)の損害残額七八六万三八一九円の一割は七八万円であり、前記(二)の損害残額二五二三万三七六三円の一割は二五二万円であるから、弁護士費用の損害は合計三三〇万円となる。

6  結論

よつて、原告は、損害賠償として、被告西村の家具に対し、八六四万三八一九円及び内弁護士費用を除く七八六万三八一九円に対する第一事故発生の日の翌日である昭和五五年九月一日から、内弁護士費用七八万円に対する訴状送達の日の翌日である昭和五九年九月三〇日から、支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、被告ら各自に対し、二七七五万三七六三円及び内弁護士費用を除く二五二三万三七六三円に対する第二事故発生の日の翌日である昭和五七年六月一五日から、内弁護士費用二五二万円に対する訴状送達の日の翌日である被告西村の家具及び被告日本通建は昭和五九年九月三〇日から、被告山口は同年一〇月二八日から、支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(第一事故の発生)の事実中、運転者が西村義夫であることは否認するが、その余は認める。運転者は西村俊雄である。

2  同2(第二事故の発生)の事実は否認する。

3(一)  同3(責任原因)(一)の事実は認めるが被告西村の家具の責任は争う。

(二)  同(二)の事実は認めるが被告日本通建の責任は否認する。

(三)  同(三)の事実及び被告山口の責任は否認する。

(四)  同(四)は否認する。

4(一)  同4(原告の傷害、治療経過及び後遺障害)(一)の事実中、原告が事故の翌日から玉川病院に通院したことは認めるが、その余は不知。

(二)  同(二)の事実は不知。

(三)  同(三)の事実中、通院の回数は不知、その余は認め、治療と各事故との因果関係は争う。

(四)  同(四)の事実は不知、後遺障害と各事故との因果関係は争う。

5(一)(1) 同5(損害)(一)(1)の金額は争う。右金額は一六七万七〇三〇円である。

(2) 同(2)の事実は不知。

(3) 同(3)は争う。

(4) 同(4)は争う。

(5) 同(5)のうち、被告西村の家具が第一事故による損害に対するてん補として支払つた金額は三一三万七〇三〇円であり、残損害額は争う。

(二) 同(二)のうち、(1)ないし(4)は否認し、(5)及び(6)は争い、(7)のうち、被告西村の家具が第二事故による損害について立替て支払つた金額は一万二八五〇円であり、その余は不知ないし争う。

(三)  同(三)は争う。

6  同6(結論)の主張は争う。

三  抗弁

被告西村の家具は、第一事故による損害に対するてん補として三一三万七〇三〇円、第二事故による損害に対する立替払いとして一万二八五〇円の合計三一四万九八八〇円を原告に支払つた。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実中、第一事故による損害に対するてん補として支払われた金額については三〇八万八七四〇円を限度として認め、その余は争う。第二事故による損害分に対する支払額は五万一一四〇円である。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  請求原因1(第一事故の発生)の事実は、運転者を除き当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、運転者は西村俊雄であることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

また、成立に争いのない甲第一号証、原本の存在と成立に争いのない甲第二号証及び原告本人尋問の結果によれば、昭和五七年六月一四日、東京都世田谷区大蔵六丁目一八番一号先路上において、工事現場方面から進行してきて、第二事故現場の道路に右折進入すべく、道路への入口付近で一旦停車していた被告山口運転の山口車が、右折のため発進した際、同所道路の歩道を右から左に歩行してきた原告に衝突する事故が発生したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

そして、被告株式会社西村の家具が第一事故当時西村車を保有し自己のため運行の用に供していた者であること、被告日本通建が第二事故当時山口車を自己のため運行の用に供していた者であることは、いずれも当事者間に争いがない。

さらに、前掲甲第一、第二号証及び原告本人尋問の結果によれば、第二事故は、被告山口が、山口車を右折発進させる際、右方を十分に注意しなかつた過失によつて発生させたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右によれば、被告西村の家具は、自賠法第三条の規定に基づき、第一事故によつて生じた損害を賠償する責任があり、また、被告日本通建は、自賠法第三条の規定に基づき、被告山口は、民法第七〇九条の規定に基づき、それぞれ第二事故によつて生じた損害を賠償する責任があるものというべきである。

二  次に、原告の傷害、治療経過及び後遺障害について判断する。

1  原告が、第一事故後玉川病院に通院し、第二事故後同病院及び九段坂病院に通院していることは当事者間に争いがない。

成立に争いのない甲第三、第四、第九、第一一、第一二号証、第一九号証の一、第二〇号証、乙第八号証、原本の存在と成立に争いのない甲第五ないし第八号証、第一〇号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第一九号証の二、原告本人尋問の結果により原本の存在と成立を認める甲第二一号証、証人呉正昭の証言及び原告本人尋問の結果を総合すれば、以下の事実が認められる。

(一)  原告は、第一事故により頸椎捻挫の傷害を負い、事故の翌日から玉川病院に通院し、第二事故までの通院回数は一一六回であつたこと、

(二)  原告は、第二事故で、転倒はしなかつたものの、身体が捩じれる状態となり、第一事故による頸椎捻挫の傷害が増悪するとともに、新たに左股関節捻挫の傷害を負い、症状が極端に悪化し、激しい項部痛、後頭部痛、両肩甲部痛、両上肢痛、腰部痛、左股関節痛、右膝部痛を感じるとともに、疲労、倦怠感と不眠に苦しみ、歩行は杖をついてようやく僅かの距離を少しづつできる程度の状態が続いたこと、

(三)  原告は、第二事故後、昭和五八年二月二一日までの間に玉川病院へ計三四回通院し、また、同病院の主治医である呉正昭医師の紹介により、九段坂病院に昭和五八年一一月九日まで計一七回通院して治療を受けたが、症状に見るべき改善がなく、同日同病院において症状固定の診断を受け、次のとおりの後遺障害が残つたこと、

(1) 主訴又は自覚症状

頭痛、頭重感、イライラ、時に左耳鳴り、項部―頸の痛み、頸の運動制限と運動痛、背痛、同一の姿勢でいることが困難、両上肢の痺れと痛み(右>左)、右第三、第四指が伸びにくい、右肩関節の運動痛と運動制限、腰痛特に運動痛、両上肢の痺れ感と痛み、両股関節痛(右>左)及びあぐらがかけない、両膝関節痛、寝つきが悪い、歩行より自転車が楽である、歩行時に一本杖を使用する、階段の昇降がつらく、しやがむと手を使用しなければ立てない。

(2) 他覚症状及び検査結果

大後頭神経・僧帽筋・腕神経叢の各圧痛(右>左)、上肢腱反射やや亢進、股関節の股屈曲位での外旋が右三五度左三〇度と制限され、あぐらがかけない、スカルパ三角の圧痛、ラセグ症状右七〇度左四五度で陽性。

(3) 頸椎運動障害

前屈六〇度、後屈四〇度、右屈三〇度、左屈四〇度、右回旋五〇度、左回旋七〇度。

(4) 右肩関節機能傷害

自動運動は、前挙一五〇度、外転一四〇度、伸展四五度、他動運動は、前挙一六〇度、外転一四〇度、伸展四五度。

(四)  呉医師は、原告の症状が容易に改善せず、治療が長期化していることについて、不自然の感を持ち、その原因について、原告本人の自覚的な問題もあり、心因的な側面が影響している疑いがあると判断し、原告に対し、気持ちを整理するよう再三指示していること、また、呉医師は、容易に改善しない原告の症状に対し、玉川病院では適当な治療方法も見当たらないことから、昭和五七年一二月ころ、頸椎捻挫について著書もあり識見のある九段坂病院の中川三与三医師に原告を紹介したこと、右紹介に基づき原告を診察した中川医師は、原告の症状について心因的側面の影響もあるのではないかとの疑問を示していること、なお、中川医師は、原告の症状に対する第一事故と第二事故が原因した比率について三対七程度の比率とみていること、

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  ところで、被告らは、原告の症状と各事故との因果関係を争い、また、乙第一ないし第四号証、第五号証の一ないし一五及び証人岡重堅の証言中には、保険会社と関係のある者において、原告の症状を詐病であるとして調査をしている事情も見受けられるので、以下、この点について検討する。

証人呉正昭の証言によれば、原告は、呉医師に受診中、頭痛のため自宅で顔面に湿布をしたところ、顔面がかぶれて腫れ上がつたため、呉医師のもとに駆けつけて、玉川病院に入院したことがあることが認められる(右認定を覆すに足りる証拠はない)ことからみると、原告は、現実に頭痛があつたため自分で顔面に湿布をしたものと解されるから、右事実は原告の症状が詐病でないことを示す有力な一事情ということができる。

また、各事故の状況をみても、原告本人尋問の結果によれば、第一事故は、原告が高速道路の料金を支払うため、停車して運転席に坐つたままで、右足でブレーキを踏み、上体を右に捻つて右側の窓から右手を出し、顔も右に向けた状態で追突されたものであり、第二事故は、原告が、歩行しながら左肩に掛けていた鞄がずり落ちるのを上げるために、上体を右に捻つて顔を下に向け、右手を鞄のベルトにかけて左肩で押し上げるという動作をしていたところ、その鞄に山口車が衝突して、原告が、斜め方向に押される状態となり、身体が横向きに捻じられる形となつて、足がもつれ、左手をボンネツトに当てて身体を支えながら、倒れないように身体を捻じつたままの状態で、山口車の前方を横向きに押されて歩く状態となつたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はなく、右の事実によれば、第一事故については、追突の衝撃が左程強くない場合であつても、被追突者である原告の姿勢等を勘案すると、頸椎捻挫の症状を呈することも不自然ではないと考えられるし、第二事故については、山口車が発進直後で左程速度が出ていないとしても、原告が第一事故による傷害のため体調が十分でないところを身体を捻じつた状態で転倒しないよう対応することを強いられたことを考えると、これにより左股関節捻挫の傷害を負い、また、第一事故による症状が増悪したとしても不自然ではないというべきである。

以上のような点からみると、原告の症状は詐病ではないものと認めるのが相当であり、心因的な側面の影響もあるにせよ(心因的な側面の影響については、後記のとおり損害賠償額の減額の要素として考慮することとする。)、基本的には本件事故と相当因果関係があるものと認めるのが相当である。

3  また、前示の原告の後遺障害の内容・程度によれば、右後遺障害は等級表第一二級一二号に該当するものと認めるのが相当である。

4  なお、前記認定事実によれば、第一事故発生から第二事故発生までの間に生じた損害については、第一事故による損害と認めるべきこと勿論であるが、第二事故後に生じた損害については、前示の中川医師の判断がある一方で、そもそも第二事故は事故それ自体としては軽微なもので、原告の身体にも直接山口車は衝突していないところ、原告が第一事故で傷害を負つた状態にあつて体調が十分でなかつたことが、第二事故で原告が左股関節捻挫の傷害を負い、また、第一事故による症状が増悪する原因となつていること等の点を勘案すると、第一事故と第二事故の関与の比率を各二分の一と認めるのが相当であるから、第一事故発生から第二事故発生までの間に生じた損害については、被告西村の家具が損害賠償責任を負い、第二事故後に生じた損害については、被告西村の家具が二分の一、被告山口及び被告日本通建が連帯して二分の一の各割合で損害賠償責任を負うものというべきである。

三  進んで、損害について判断する。

1  第二事故発生までの損害

(一)  治療費 一六七万七〇三〇円

成立に争いのない乙第一〇号証の一ないし三によれば、被告西村の家具加入の任意保険において、原告の第一事故後第二事故発生までの治療費として一六七万七〇三〇円を支払つていることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右の事実によれば、原告は、第一事故後第二事故発生までの治療費として一六七万七〇三〇円を要したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(二)  交通費

原告が第一事故後第二事故発生までの間に玉川病院へ一一六回通院したことは前示のとおりであり、右の事実によれば、原告は、右通院のための交通費として相応の金額を支出したことが認められるが、具体的な支出額を認めるに足りる証拠がないので、右交通費については慰藉料の算定において斟酌することとする。

(三)  休業損害 六四八万八四一七円

原告本人尋問の結果により原本の存在と成立を認める甲第一四ないし第一七号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、サウナサロン駒沢にマツサージ師として勤務するとともに、アルバイトとしてマツサージ業に従事していたところ、第一事故後、前記の傷害により、全く稼働することができないまま今日に至つていること、原告のサウナサロン駒沢における第一事故前三か月間の給与は合計五〇万五九九一円であつたこと、ただ、原告はほかにもアルバイトとしてマツサージ業をすることによつて相応の収入を得ていたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右の事実によれば、原告の休業損害算定の基礎収入としては、各年度の賃金センサス第一巻第一表、企業規模計、産業計、男子労働者、学歴計、全年齢平均給与額(昭和五五年は三四〇万八八〇〇円、昭和五六年は三六三万三四〇〇円、昭和五七年は三七九万五二〇〇円)によるのが相当であるから、これに基づき、原告が稼働できなかつた日数、すなわち、昭和五五年は第一事故発生から年末まで一二二日、昭和五六年は全期間三六五日、昭和五七年は第二事故まで一六五日に従つて計算すると、昭和五五年は一一三万九三七九円(一円未満切捨)、昭和五六年は三六三万三四〇〇円、昭和五七年は一七一万五六三八円(一円未満切捨)となり、その合計は六四八万八四一七円となる。

(四)  傷害慰藉料 六〇万円

前示の原告の傷害の内容、程度、治療経過等に照らすと、第一事故から第二事故までの期間における原告の傷害に対する慰藉料は六〇万円をもつて相当と認める。

(五)  損害のてん補 三一二万七〇三〇円

第一事故による損害に対するてん補として被告西村の家具から三〇八万八七四〇円が支払われたことは当事者間に争いがなく、前掲乙第一〇号証の一ないし三によれば、以上の損害に対するてん補として、被告西村の家具から(正確には被告西村の家具加入の保険会社から)三一二万七〇三〇円が支払われていることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  第二事故後の損害

(一)  治療費 五万六三四〇円

前掲甲第九、第一一号証、成立に争いのない甲第一三号証の一、原本の存在と成立に争いのない甲第一三号証の二によれば、原告は、第二事故後症状固定日までに五万一一四〇円の治療費及び五二〇〇円(振込手数料を含む)の文書料を支出したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない(なお、福祉事務所から支払われた治療費については損害に計上せず、また、損害のてん補として控除しないのが相当である。)。

(二)  交通費

原告が第二事故発生後玉川病院へ三四回、九段坂病院へ一七回それぞれ通院したことは前示のとおりであり、右の事実によれば、原告は、右通院のための交通費として相応の金額を支出したことが認められるが、具体的な支出額を認めるに足りる証拠がないので、右交通費については慰藉料の算定において斟酌することとする。

(三)  休業損害 五四四万三九二五円

前記1(三)に認定した事実によれば、原告の第二事故後の休業損害は前記と同様に算定するのが相当であるから、各年度の賃金センサス第一巻第一表、企業規模計、産業計、男子労働者、学歴計、全年齢平均給与額(昭和五七年は前掲、昭和五八年は三九二万三三〇〇円)に基づき、原告が稼働できなかつた日数、すなわち、昭和五七年は第二事故発生から年末まで二〇〇日、昭和五八年は症状固定日まで三一三日に従つて計算すると、昭和五七年は二〇七万九五六一円(一円未満切捨)、昭和五八年は三三六万四三六四円(一円未満切捨)となり、その合計は五四四万三九二五円となる。

(四)  傷害慰藉料 四〇万円

前示の原告の傷害の内容、程度、治療経過等に照らすと、第二事故から症状固定日までの期間における原告の傷害に対する慰藉料は四〇万円をもつて相当と認める。

(五)  後遺障害による逸失利益 四五七万〇七三六円

前示の原告の後遺障害の内容、程度等によれば、原告は、その後遺障害により、症状固定日から一〇年間、一四パーセントの割合で労働能力を喪失したものと認めるのが相当であり、また、原告の逸失利益算定の基礎収入としては、期間が将来にもわたることを勘案すると、昭和六〇年賃金センサス第一巻第一表、企業規模計、産業計、男子労働者、学歴計、全年齢平均給与額である年額四二二万八一〇〇円を基礎とするのが相当であるから、ライプニツツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、原告の逸失利益の現価を算定すると、次の計算式のとおり、その合計額は四五七万〇七三六円(一円未満切捨)となる。

422万8100×0.14×7.7217=457万0736

(六)  後遺障害慰藉料 二〇〇万円

前示の原告の後遺障害の内容、程度等によれば、原告の後遺障害に対する慰藉料は二〇〇万円をもつて相当と認める。

(七)  損害のてん補 五万一一四〇円

前掲甲第九号証によれば、原告は、以上の損害に対するてん補として、被告西村の家具加入の保険会社から五万一一四〇円を受領したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

四  心因的要素の関与による減額

前記認定事実によれば、原告の症状が比較的重く、かつ治療の効果がさして上がらなかつたことについては、原告の性格等、原告の心因的な側面も影響しているものと認められるところ、右原告側の事情による損害の増大をすべて加害者側に負担させることは、損害を公平に分担させるという損害賠償法の根本理念からみて適当でないものといわざるをえない。そこで、公平の見地から被告らの賠償すべき損害額を減額するのが相当であると解されるところ、前示の治療経過等前記認定の諸事情を総合勘案すれば、前記認定の損害額の三〇パーセントを減額するのが相当である。

よつて、前示の第二事故前の損害額合計八七六万五四四七円から三〇パーセントを減額すると六一三万五八一二円(一円未満切捨)となり、第二事故後の損害額の合計一二四七万一〇〇一円から三〇パーセントを減額すると八七二万九七〇〇円(一円未満切捨)となる。

したがつて、被告西村の家具の賠償すべき額は、右の第二事故前の損害残額六一三万五八一二円から前示の損害てん補額三一二万七〇三〇円を控除した残額三〇〇万八七八二円と右の第二事故後の損害残額八七二万九七〇〇円の二分の一である四三六万四八五〇円から前示の損害てん補額五万一一四〇円を控除した残額四三一万三七一〇円との合計額である七三二万二四九二円となり、また、被告山口及び被告日本通建の賠償すべき額は、右の第二事故後の損害残額八七二万九七〇〇円の二分の一である四三六万四八五〇円となる。

五  弁護士費用 一一〇万円

弁論の全趣旨によれば、原告は、被告らから損害額の任意の弁済を受けられないため、弁護士である原告訴訟代理人に本訴の提起と追行を委任し、その費用及び報酬として認容額の一割に相当する金額を支払う旨約したことが認められるところ、本件訴訟の難易、審理経過、前示認容額、その他本件において認められる諸般の事情を総合すると、被告西村の家具の賠償すべき弁護士費用としては七〇万円、被告山口及び被告日本通建の賠償すべき弁護士費用としては四〇万円をもつて相当と認める。

六  以上によれば、原告の被告らに対する本訴請求は、被告西村の家具に対し、第一事故による損害賠償として、八〇二万二四九二円及び内弁護士費用を除く七三二万二四九二円のうち、第二事故前の損害に対応する分である三〇〇万八七八二円に対する第一事故発生の日ののちである昭和五五年九月一日から、第二事故後の損害に対応する分である四三一万三七一〇円に対する第一事故発生の日ののちである昭和五七年六月一五日から、内弁護士費用七〇万円に対する第一事故発生の日ののちである昭和五九年九月三〇日から、支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、被告山口、同日本通建各自に対し、第二事故による損害賠償として、四七六万四八五〇円及び内弁護士費用を除く四三六万四八五〇円に対する第二事故発生の日ののちである昭和五七年六月一五日から、内弁護士費用四〇万円に対する第二事故発生の日ののちである被告山口は昭和五九年一〇月二八日から、被告日本通建は昭和五九年九月三〇日から、支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求める限度で理由があるから、右限度でこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小林和明)

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